デヴィッド・リンチ監督作品
2026年1月9日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

INTRODUCTION

デヴィッド・リンチが、愛すること、許すことをシンプルに描いた永遠の感動作

73歳のアルヴィン・ストレイトという老人が長らく仲違いしていた兄が心臓発作で倒れたことを知り、560kmの道のりを時速8kmのトラクターに乗って会いに行ったという実話。1994年8月25日のニューヨークタイムズ紙に掲載されたその記事を読んだのは、デヴィッド・リンチ作品の編集を手掛け、公私にわたるパートナーのメアリー・スウィーニーだった。96年にアルヴィンは亡くなっていたが、記事に感動したスウィーニーはジョン・ローチとともにその道のりを辿り、アルヴィンの家族や旅で出会った人たちに話を訊いて脚本を執筆した。その脚本をリンチが読み、シンプルでまっすぐな物語に心を揺さぶられ、自ら監督することを決めた。脚本を執筆したスウィーニーが製作と編集を兼ね、撮影は『エレファント・マン』(80)『デューン/砂の惑星』(84)のフレディ・フランシス、音楽は『ブルーベルベット』(86)で成功を収めて以降、多くのリンチ作品を手掛けたアンジェロ・バダラメンティ。美術は『イレイザーヘッド』にも出演し、リンチの学生時代からの親友のジャック・フィスク。衣裳は『エレファント・マン』以降のリンチの作品に参加しているパトリシア・ノリスとリンチ作品に欠かせないスタッフが集結。

アルヴィン・ストレイトを演じるのは、ジョン・フォード監督作品などのスタントマン出身で、63歳で初主演した『グレイフォックス』(83)で高い評価を受けたリチャード・ファーンズワース。本作で「宝石のようにすばらしい」と評され、アカデミー賞®︎主演男優賞にノミネートされたほか、数々の映画賞を受賞した。美術のフィスクの妻であり、リンチの親友のシシー・スペイセクが心に深い傷を持つ娘、ローズを繊細に演じる。兄ライルはハリー・ディーン・スタントンが短いながらも胸に響く名演を見せる。

ヴィッド・リンチ監督が信頼するスタッフ&キャストとともに愛すること、許すことをシンプルに描き、リンチ作品で初めて一般向けのレイティングでアメリカではディズニーが配給し、「すばらしく、忘れがたい映画」「シンプルで感動的。観客の心をとらえて離さない」などと絶賛され、大ヒットした永遠の感動作。トウモロコシ畑をトラクターがゆっくりと進んでゆく広大な風景が心に残る物語とともにデヴィッド・リンチ自身が生前に監修した美しい4Kリマスターでスクリーンに甦る

STORY

もう一度、兄と一緒に星空を眺めために

73歳のアルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)は、アメリカ・アイオワ州ローレンスで娘のローズ(シシー・スペイセク)と二人で暮らしている。ある日、転倒して無理矢理、病院に連れていかれる。医者からは治療をするように言われ、普段は歩行器を使うようにと指導されるが、拒絶。2本の杖を使うことだけは受け入れてさっさと家に帰ってしまう。頑固な老人である。
雷雨の夜、仲違いをして長らく口もきいていなかった、76歳の兄のライル(ハリー・ディーン・スタントン)が心臓発作で倒れたという知らせが入る。ライルが暮らすウィスコンシン州マウント・ザイオンまでは560km。車であれば一日の距離だが、運転免許証を持っていない。しかし、自分の力で会いに行くと決めたアルヴィンは周囲の反対に耳も貸さず、たったひとり、時速わずか8kmのトラクターに乗り、旅に出る。もう一度、兄と一緒に星空を眺めるために。

STAFF

監督:デヴィッド・リンチ

1946年1月20日、モンタナ州ミズーラ生まれ。
画家を目指し、ボストン美術館付属美術学校に通い、ジャック・フィスクと共にヨーロッパ留学を計画、オーストリアへ。しかし、街があまりにもきれいであったことから3年間滞在する予定のところを15日間で帰国、その後、フィスクとともにフィラデルフィアに移り、ペンシルベニア芸術科学アカデミーに入学。一軒家を買い、その地下室で絵画や映画制作に没頭する。短編アニメ『アルファベット』が認められて奨学金を得てロサンゼルスに移る。71年、5年の歳月をかけて『イレイザーヘッド』を自主制作し、76年に長編映画監督としてデビュー。『イレイザーヘッド』はカルト的な人気を博した。80年公開の『エレファント・マン』では批評的、興行的にも成功を収め、その年のアカデミー賞で作品賞を含む8部門にノミネートされた。しかし、次作のフランク・ハーバートのSF小説を原作にした超大作『デューン/砂の惑星』(84)は配給会社により大幅にカットされてしまい、興行・批評の両方で大失敗してしまう。この経験から、『ブルーベルベット』(86)ではファイナル・カットの権利を手に入れ、自身の思い通りの作品を作り、アカデミー監督賞にノミネートされる。90年からABCにて放送されたテレビドラマ『ツイン・ピークス』が世界的なブームになる。また同年に発表した『ワイルド・アット・ハート』がカンヌ映画祭でパルム・ドール賞を受賞した。97年に『ロスト・ハイウェイ』、99年に『ストレイト・ストーリー』、01年に『マルホランド・ドライブ』、06年に『インランド・エンパイア』とコンスタントに監督作を発表した。『ストレイト・ストーリー』は主演のリチャード・ファーンズワースが高い評価を受け、ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞を受賞。アカデミー主演男優賞にノミネートされた。『マルホランド・ドライブ』はカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞、アカデミー監督賞にもノミネートされ、16年にはBBCが企画した「21世紀最高の映画100本」で1位に選ばれている。22年にスティーヴン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』で俳優としてジョン・フォードを演じた。
25年1月15日、ロサンゼルスの実娘の家にて78歳で亡くなった。死因は不明だが、長年の喫煙による肺気腫と言われている。

製作・脚本・編集:メアリー・スウィーニー

デヴィッド・リンチの公私のわたるパートナーとして多くのリンチ作品を支えていた。映画では『ブルーベルベット』(86)『ワイルド・アット・ハート』(90)『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(92)『ロスト・ハイウェイ』(96)『マルホランド・ドライブ』(01)に編集として、『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』(06)はプロデューサーとして作品を手掛けた。また、TVシリーズでは「ツイン・ピークス」(91)「オン・ジ・エア」(92)、「ホテル・ルーム」(93)の編集をしている。
本作で初めてジョン・ローチとともに脚本を執筆し、製作、編集も兼ねている。

撮影:フレディ・フランシス

1917年12月22日、イギリスロンドン生まれ。D・H・ローレンス原作の『息子と恋人』(60)、『グローリー』(89) で2度、アカデミー撮影賞を受賞している。その他にメリル・ストリープ主演の『フランス軍中尉の女』(81)、マーティン・スコセッシ監督の『ケープ・フィアー』(91)などの撮影を手掛けている。デヴィッド・リンチ作品は『エレファント・マン』(80)、『デューン/砂の惑星』(84)に次いで本作が3作目。
07年3月17日、脳梗塞のため89歳で亡くなった。

音楽:アンジェロ・バダラメンティ

1937年3月22日、ニューヨーク生まれ。最初に手掛けたサウンドトラックは73年の『ゴードンの戦い』だった。86年に『ブルーベルベット』の音楽で成功を収め、その後、『デューン/砂の惑星』(84)『インランド・エンパイア』(06)を除く、すべてのリンチの劇映画の音楽を手掛けている。『ブルーベルベット』「オン・ジ・エア」(92)にはピアニスト役で出演している。
22年12月11日に85歳で亡くなった。

美術:ジャック・フィスク

1945年12月19日、イリノイ州カントン生まれ。70年代から美術監督として活躍している。テレンス・マリック監督の『バッドランズ』(73) 『天国の日々』(78)、ブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』(74)、『ファントム・オブ・パラダイス』(76)などの美術監督を務めた。80年代に入ると『すみれは、ブルー』(86)『家族狂想曲』(90)で監督業にも進出した。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『レヴェナント: 蘇えりし者』(15) 、マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(23) でアカデミー美術賞候補になっている。デヴィッド・リンチ監督とは高校時代からの親友。『イレイザーヘッド』に出演し、「惑星の男」を演じている。

衣裳:パトリシア・ノリス

1931年3月22日、カリフォルニア生まれ。78年、テレンス・マリック監督の『天国の日々』、80年『エレファント・マン』、82年、ブレイク・エドワーズ監督のミュージカル映画『ビクター/ビクトリア』、84年、ピーター・ハイアムズ監督の『2010年』、88年、ブルース・ウィリスが出演した『キャデラック・カウボーイ』、13年、スティーヴ・マックイーン監督の『それでも夜は明ける』でアカデミー衣裳デザイン賞に6度ノミネートされた。 『エレファント・マン』以降、『デューン/砂の惑星』(84)『マルホランド・ドライブ』(01)『インランド・エンパイア』(06)を除く、すべてのリンチの劇映画の衣裳を手掛けている。

CAST

リチャード・ファーンズワース

リチャード・ファーンズワース(アルヴィン・ストレイト)

1920年9月1日、ロサンゼルス生まれ。37年に『マルコ・ポーロの冒険』で乗馬のスタントマンとして映画デビューを果たして以来、ジョン・フォード、ハワード・ホークス、サム・ペキンパーなどの著名な監督の映画に出演した。『スパルタクス』(60)ではカーク・ダグラスの代役で剣を振るった。ゴールディ・ホーンとジョージ・シーガルと共演の『イカサマ貴婦人とうぬぼれ詐欺師』(76)で初めて台詞のある役を演じ、77年にはジェーン・フォンダと共演したアラン・J・パクラ監督の『カムズ・ア・ホースマン』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。『グレイフォックス』(83)で伝説の盗賊ビル・マイナーを演じ、高い評価を受けた。当時63歳で初の主演だった。その後、ロバート・レッドフォード主演の『ナチュラル』(84)、シルベスター・スタローン主演の『クラブ・ラインストーン/今夜は最高!』(84) キャシー・ベイツがアカデミー賞®︎主演女優賞にノミネートされた『ミザリー』(91)などに出演した。
本作ではデヴィッド・リンチ監督に「この役を演じるために生まれてきた」と絶賛され、高い評価を受け、ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞を受賞。アカデミー賞®︎主演男優賞にノミネートされた。当時79歳で史上最年長候補者だった。
癌を患い、闘病の末、00年10月6日、ショットガンで自らの命を絶った。

シシー・スペイセク

シシー・スペイセク(ローズ)

1949年12月25日、テキサス州クイットマン生まれ。高校卒業後、女優を志し、アクターズ・スタジオで演技を学んだ。テレンス・マリック監督の『バッドランズ』(73)で、マーティン・シーン演じるジェームズ・ディーンに憧れる殺人犯キットと逃避行する恋人のホリー役で初めて観客や批評家の注目を集めた。
76年に『キャリー』のタイトルロールを演じ、アカデミー賞®︎主演女優賞にノミネートされ、ロバート・アルトマン監督の『三人の女性』(77)ではニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞を受賞。79年、『歌え!ロレッタ愛のために』でアカデミー賞®︎女優賞他数々の賞を受賞。コスタ・ガブラス監督の『ミッシング』(82)、メル・ギブソンと共演した『ザ・リバー』(84)、ダイアン・キートンとジェシカ・ラングと共演した『ロンリー・ハート』(86)で続けてアカデミー賞®︎主演女優賞にノミネートされた。『ロンリー・ハート』ではニューヨーク映画批評家賞、ゴールデングローブ賞を受賞している。その後も『グラスハープ/草の竪琴(95)、『白い刻印』(97)、『タイムトラベラー きのうから来た恋人』(99)などに出演。01年、『イン・ザ・ベッドルーム』はサンダンス映画祭で上映されると批評家陣から絶賛され、夫役のトム・ウィルキンソンとともに審査員賞を受賞。アカデミー賞®︎で5部門(作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、脚本賞)にノミネートされた。その他、『美しい人』(05)『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(11) 、『さらば愛しきアウトロー』(18)などに出演している。

ハリー・ディーン・スタントン(ライル)

1926年7月14日、ケンタッキー州ウエスト・アーヴィン生まれ。56年の『ララミー砦の反乱』で映画デビュー。60~70年代は西部劇を中心に活動し、ジョン・ミリアス監督・脚本の『デリンジャー』(73)、ロバート・ミッチャムがフィリップ・マーロウを演じた『さらば愛しき女よ』(75)、リドリー・スコット監督の『エイリアン』(79)、ジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』(81)などで注目を集める。84年にはヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』、アレックス・コックスの監督デビュー作『レポマン』の2作品で主演している。その後は、大ヒットした『プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角』(85)、マーティン・スコセッシ監督の『最後の誘惑』(88)、トム・ハンクス主演の『グリーンマイル』(99)、ショーン・ペン監督、ジャック・ニコルソン主演の『プレッジ』(01)、『最高の人生の選び方』(09) アーノルド・シュワルツェネッガーの俳優復帰作『ラストスタンド』(13)などに出演。出演作品は映画とテレビを合わせ100本以上にのぼり、名だたる監督の作品へ出演している。
デヴィッド・リンチ監督とはTVオムニバスドラマ「カウボーイとフランス男」(89)への出演が初めてで、その後、『ワイルド・アット・ハート』(90)『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(92) 「ホテル・ルーム」(TV・93)に出演しており、本作での主人公アルヴィンの兄ライル役は観る者の心に残る名演だった。06年には『インランド・エンパイア』にも出演している。遺作となった主演作『ラッキー』(17)ではリンチと共演を果たしている。
17年9月15日、老衰のため91歳で亡くなった。